私のブログに今回のタイトルのような質問がきた、きっと一般の人はみんな思ってるんだろうな。その質問してくれた方にも返信したが、ここであらためて私の考えを述べたいと思う。
横綱白鵬が優勝46回を果たし、長く君臨してきたが、後半は張り手カチ上げに頼っていたことは否めない。しかし、なぜやってくると分かりきっているにもかかわらずそれを食らってしまうのか?やりかえすような人間がいないのか?
まず、一つ目の理由は角界には目上の人間に対してカチ上げや張り手などを使うのはダメという暗黙のルールがある。明確に記されているものはないが、自分より立場の上の人間にぶつかっていくというのは胸を借りるということ。張り手などしたら失礼にあたるというものだ。これは日本人としての美学でもあるだろう、本場所はもちろん稽古場でも使ってはいけない空気にはなっている。特に稽古場は目上の人間ですら下の人間に使ってはいけない風潮がある。力を出し切り鍛錬の場であるから、奇襲である張り手、カチ上げでは地力がつかない。だから日本人力士は、そういった教えや空気を守っている。しかし、モンゴル人は違う。禁じ手でない以上使っちゃいけないというのは道理に合わないというのが彼らの考え方である。例え怒られても、その時は帳尻合わせていうことを聞いても、やはり勝つためにはやるしかないと使い続ける。こういったお国柄の考え方の差が、現在の相撲界の勢力図に如実に表れているような気がする。日本人の考えである目上の人を敬うということはとても素晴らしいことではあると思う、しかし敬ってるだけで出世していけるような世界ではない。美徳だけ追い求めても番付が上がらなければ意味がない、ましてややられっぱなしなど敵前逃亡同然である。文化、考え方など時と場合にくらいに考えないとがんじがらめになってしまう。そもそも現代で、目上の者が心底下の者を教える、下の者が上の者を敬うなんてことすら薄れてきてる。日本人らしさという定義もはや誰もわからなくなっているのだから、バチバチファイトを展開してもいいのでは?
そして二つ目の理由、やり返さないのは白鵬が怖かったからである。勝てばもちろんのこと、張り手・カチ上げなんて繰り出したら後々の報復は避けられない。巡業やら場所前の出稽古で、胸を貸すという名目で制裁の如くきついしごきが待っている。かわいがりといわれるぶつかり稽古はもちろんのこと、怪我をさせられるような大技まで繰り出す。これを乗り越えるという覚悟を持った力士がいなかったということ。かつて、千代の富士も負けた相手を巡業で指名したり、出稽古に横綱自ら出向きみっちり稽古をつけ恐怖心を植え付けたそうだ。しかし、当時は怪我をさせるようなことはしなかった。きちんと下の者を育てるという横綱としての本分を果たしていたのである。その横綱の意図に最も応えていた部屋があった、藤島部屋である。当時藤島軍団とまで言われ、飛ぶ鳥を落とす勢いであった。最初は安芸ノ島(後安芸乃島)と貴闘力を筆頭に、そのあと貴花田(後の貴乃花)や若花田(後の三代目若乃花)に出てきた。制裁を受けようがお構いなし、当時の横綱に果敢に挑み勝利を挙げてきた。安芸ノ島関は金星を量産し、貴闘力関は横綱にも平気で張り手を繰り出した。貴花田は千代の富士を引退を決意させる勝利を挙げ(千代の富士は二日後の貴闘力戦を最後に引退)、若花田は旭富士を引退に追い込んだ。この4人全員が横綱に引導を渡している、逆を言えばきちっと恩返しを果たし、バトンを引き継いだのである。
藤島旋風は、私が相撲を始めた頃に起こった。相撲界では、これが日常なのかと思ったが、その後あれほどカッコ良くて、勢いのある部屋を見たことがない。スポーツ新聞はいつもトップを飾り、雑誌も特別号がたくさん出た。こんな話を聞いたことがある、「巡業の稽古があんな楽だとは思わなかった、本場所が始まるのが待ち遠しくてたまらなかった」これはある藤島部屋の力士の談である。そのくらい当時の部屋の稽古が厳しかったのだ。日々の稽古がそれだけのものなら、横綱の制裁など全く怖くないだろう。心臓に汗をかけというくらいの猛稽古は、並外れた精神力を養い、相撲界の中心に君臨した。一つの部屋がそのくらいの勢いがあると、相撲界全体も人気が出る。確か当時は満員御礼の記録も出ていたような?
結局は稽古が足りないという結論に達する。このブログを書きながら思ったが、今は巡業もなければ、出稽古もできない。稽古総見もない、あるのは合同稽古ちょびっとだけ。ということは横綱に制裁を加えられる機会がなかったはず?それなのに結局は白鵬にはやられっぱなはしで終わったのである。名実ともに勝ち逃げされてしまった、脈々と受け継がれてきた引導を渡す次世代の後継者が現れずに一つの時代が終わったのだ。照ノ富士がいるじゃないかという声も挙がるかと思うが、ちょっと違うような気もする。今後相撲界はどうなっていくのだろうか?