学生横綱を獲得した翌日は寝不足で生きた心地はしなかったが、この日1日で4年間の全てが終わるんだ、重荷を降ろすことができるんだと不思議に力が湧いた。ただ、前日準優勝した主力選手が怪我で欠場したということで重い空気が漂っていた。団体戦は順調に勝ち進んでいった。準決勝の日体大戦が山場で、先二つ取られてあと一回負けたら終わり。中堅の選手は対戦相手に勝ったことがないと言う、私は副将だったが、ああ今年は3位か、まあ頑張ったかなと半ば諦めていたら目の覚めるような相撲で勝つではないか。逆リーチの場面が自分にまわってきてしまった。私の相手は前日個人三位の選手、簡単ではない。開き直って勝った!そのまま大将も決めて逆転勝利。決勝戦進出を決めて、次の日大-駒大戦は見ずに体を動かした。日大が来ると思いきや、なんと駒大が勝った。いける!そう思って決勝の舞台へ上がった。先程の展開とは逆でリーチの場面が自分に巡ってきた、勝てば26年ぶりの優勝。生まれる前の話だ。そして勝った!主将として、そして自分の勝ちで優勝を決めて一番カッコいい場面をいただいた。あの日の感動は忘れられない。
伊東さんも大号泣していた。大号泣しながらいつもの癖のズボンを思い切りあげる動作もしていたのが写真に写っており笑った。あのあとの記憶は定かではない、皆胴上げしてもらって、祝勝会あげてもらったと思うがたった二日でも力を出し切り放心状態だった。仲間とドンチャン騒ぎもなく、寮に帰ったら早々に寝た。
相撲部行きつけのスナックがある、翌日ママから電話きて昨日伊東さんが1人でふらっと来たと。たぶん散々飲んだ後夜遅くに行ったのだろう、しみじみと嬉し涙を流しながら語っていたそうだ。それが一番嬉しかった。
時は経ち、大相撲入りした後もずっとお世話になった。毎年三月場所がある大阪では、近大出身力士の食事会を開いてくれた。同じ大学出身でも、土俵では敵同士。世代も違う。この食事会で懇親を深め、英気を養い、お互いの健闘を誓い合った。伊東さんは、現役のことまで考えてくれる気遣いの人だった。
私は東京、伊東さんは大阪。この距離感がもしかしたら一番良かったのかもしれない、伊東さんの下で働きたいとも思ったことがあったが、見たくないところまで見えてたかもしれないとふと思う。人間ってそんなもんじゃないかな?
昨年は社会人2年目で生活にも慣れてきていた。ゴールデンウィークは大学の遠征にくっついていこうと何故か思った。10何年ぶりの四国・九州遠征、宇和島も宇佐も変わらなかった。伊東さん、学生と飯食って酒飲んで、六畳間に2人で仲良く布団並べて寝て、一緒に風呂入ってって初めてじゃないかな?
何故あの時行こうと思ったのか、今になればわかる気がする。今生の別れの予感かな?人間ってそういう勘は備わってるような気がする。
大学時代もこれ以上ない結果を残して恩返ししたし、晩年を一緒に行動したから悔いはない。
寂しさはぬぐい切れない、けれどいつまでも甘えちゃいけない。亡くなる前日に会社を辞めたんだ、それも相談しようとした矢先だったわけだが、自分で考え、自分で決めた今の道はあながち悪くない。
伊東さん、もとい監督!本当にありがとうございました。いつか私がそっち行ったら一緒飲みましょう、私の中の監督は伊東さん1人だけ。いつも見守って下さってると思いながら気を引き締めて生活していきます。
終