自伝25 大学相撲部の合宿に参加

 インターハイから帰ってきて休む間もなく、駒沢大学相撲部の夏合宿に参加することになった。特に行けと言われたわけではなかったが、未知の世界への好奇心、いずれは進むかもしれない世界を高校一年生のうちに経験しておくのは何かと得だろうと思ったからだ。後先考えずに行動するのはこの時から変わっていない。

当時は駒大は山形で合宿していた。結構大きな会社が実業団相撲に協力的で、本社隣に立派な合宿所が建てられ、そこで汗を流していたのだ。私一人では心細く、休もうと思えば休むことができた同級生を巻き込んで合宿へ行くことになった。

到着したのは朝稽古中だったが、いきなりマワシをつけて、準備運動もそこそこに大学生と相撲を取った。あれれ、意外と勝てると思ったら、マネージャー候補の一年生の人とかだった。レギュラークラスは土俵周りで準備運動をしていた、途中で土俵を抜け、レギュラーの稽古を見守る。立ち合いが全然違う、やはり大学相撲はレベルが違うと思った。

というより、大学の合宿は稽古よりその後が大変だった。お客さん扱いは一切なく、一年生の人達と雑用をこなす。そして、駒沢の伝統は一年生でも痩せないようひたすら飯を食わされる夏の暑い盛りの中、稽古後の飯はいいおかずも先輩に食われ、暑くて食欲がわかない中で、なんとか白飯をかっこんだ。上級生は自分のご飯が終わっても、下がらない。下級生が残さず食べ終わるまで監視していた、一度2年生の人が食べ物を隠したのが見つかってしまったが、次の日稽古で可愛がり(しごき)を受けていた。

当時のキャプテン、名前は明かさないがまぁ言葉も荒々しくすぐ手を出す人で怖かった。私ら高校生には手まで出さなかったが、コラァみたいな感じで接してきていた。なんか卒業したあとは中学校の先生されていて、生徒に慕われてる様子だったけど、当時の姿なんて誰も想像できないだろうね。

長い飯の昼飯の時間が終わって片付けが終われば、すぐに晩飯の支度だ。胃も体も休める暇がない、ただの内臓破壊だ。なんで合宿参加したいなんて言ってしまったんだろうと早速後悔したものだ。上級生はクーラーの効いた涼しい部屋で寝れるが、一年生は稽古場の上がり座敷で扇風機しかない。いくらフル稼働させたところで熱風には変わりない、終いには夜中にパンツまで脱いで寝ていた。朝早く6時前には起きて稽古の準備だ、相撲部屋と変わりない生活だった。

私の高校の監督は駒沢OBである、当時の駒沢の監督は、高校の先生の後輩に当たる人だった。そういうこともあって、山形には駒沢相撲部OBがたくさんいた。合宿していると、毎日のように入れ替わり立ち替わりOBが顔を出してくる。そして、我々が来ていることを知ると、学生達を焚き付ける「駒沢流の稽古を見せつけてやってくれ!」と。

簡単な話がしごいてやれということである、余計なことを言いやがってとムカついた。学生もわかりましたー!なんて張り切っている、そうなると、生きた心地はしない。前の晩は眠れなくなる、しかし私はそういうのから逃げるのは得意だった。私だけ回避できたが、無理矢理参加させられた同級生は大学生の餌食となってしまった、ぶつかり稽古でたっぷり可愛がられていた。あと一回押したら終わりだー!が3回続く、嬉しくないおまけ(汗)。終いには、誰かが「おつりでもう一回押せ!」と言った時に、その同級生は心の叫びが思わず口から飛び出してしまった・・「募金します!!」。

これが大学生の逆鱗に触れ、また少ししごかれていた。行きたくもない合宿行かされ、しごかれてしまい、なんとも可哀想だった。しかし、極限まで息が上がってるのに募金しますなんてよく言葉に出せたなぁなんて関心もしてしまう、結局彼は一年後に相撲部をやめることになるのだが・・・。

あと、OBが定番のごとくビールを差し入れしてくるので、それも一年生や二年生が飲まされていた。私達高校生は未成年だから飲まされることはなかったが、意外とそういうところは真面目なんだなと思った。今から20年前なら、未成年だろうと飲酒なんてザラだっただろう、だって大学一年生だってまだ未成年だ。

顔真っ赤にして、苦しそうにして次の日稽古場降りる姿を見るのは辛かった。自分が大学生になったら同じ目に遭うことになる、大学行かないで大相撲の世界行ったって同じことになるだろう。大人の世界の現実をまざまざと見せつけられて、果たしでこのまま相撲を続けるべきか悩み始めた。盲腸破裂して、病み上がりだったのも影響しているが心身共に疲弊していた。

3泊4日くらいの合宿だったが、相撲は強くなった気はしなかった。大学の雰囲気を味わったという点で勉強にはなった。しかし、実はこの後東大相撲部が高校に合宿に来ることになっていた。同じ大学相撲だが、東大さんはBクラスやCクラスの割とレベルが下の方だから正直楽勝と思っていた。

 それは後々見当違いだったと現実を突きつけられるのだが、高校一年生の夏はとにかく相撲漬けだった。今振り返ると、まばゆいくらいの青春の思い出話でありますな(笑)。

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