ふと思いついた言葉である、元々は「織田(信長)がつき、羽柴(豊臣秀吉)がこねし天下餅、座りしがままに食うは徳川(家康)」という言葉が存在する。天下布武という思想の下、織田信長が天下統一に向け動いていたが、志半ばにして、明智光秀が起こした本能寺の変に倒れる。そして、信長の意思を受け継いだ秀吉が光秀を倒し、やがて天下を統一する。しかし、その生涯を終えたところで今度は家康が取って変わって豊臣家を滅ぼし江戸幕府を開く。その後260年、世界でも有数の都市江戸を築きあげた。
相撲でも、モンゴル勢が日本にやってきた時から、なんとなく天下統一に向けての流れと似ているように思える。6人の若者が異国の地にやってきて、半分は辞めたが3人は歯を食いしばって閉ざされた日本の伝統文化の厳しい世界に耐え抜いた。とても文章に書けるような生半可ではないイジメも受けたと思う。今の相撲協会を見てもわかるが、自分を脅かす勢力は徹底的に潰そうとするのが日本だ。驚異的な身体能力を誇るモンゴル人にはきっと恐れをなしていたのだろう、やがて2人が関取になり、その後幕内で活躍。大関・横綱まで行けなくても、大相撲界でのモンゴルの地位を確立した。これは天下餅をつくことに成功した。
そこに朝青龍・朝赤龍が入ってきた、明徳義塾で相撲の下地ができていたから2人はトントン拍子に出世。加えて旭鷲山・旭天鵬が道筋を作っていてくれたおかげで、先人たちほどの苦労もなく活躍していった。特に朝青龍は、身体能力に加えハングリー精神の塊で、相撲界の頂点を本気で狙っていた。そして、第68代横綱に昇進する。
そして、朝青龍の活躍に呼応するかのように、この頃多くのモンゴルの若者が入門してきた。外国人枠が一部屋2人から1人に減らさざるを得なくなるほど一気にモンゴル人力士が増えた、新弟子は相撲教習所に通うが、ここでの指導員が朝赤龍であった。モンゴル勢躍進のシステムがきちんと整ったというわけだ、後に横綱となる白鵬・日馬富士をはじめ、幕内に上がる力士達もたくさんいた。相撲部屋という枠を越えて、モンゴルという一つの独立機関があるようにも見えた。
朝青龍は天下餅を順調にこねていたようにも見えたが、日本人さえわからない横綱の品格に苦しむ。私的には品格などというものははっきりしたものは存在していない。要は言うことを聞くか聞かないかである、言われた通り動く横綱ならこれほど楽なことはない。しかし、国が違えば文化・考え方が違うのは当然のこと。朝青龍は反発した、結局出る杭は打たれる形でまだまだやれる感じではあったが、角界を去った。
そして、白鵬が横綱として台頭した。まさに座りしがままに天下餅を食った。お手本がいなかった朝青龍は運が悪かったかもしれない、しかし朝青龍を反面教師として学んだ白鵬は、日本人の悪しき慣習から身を守るべく横綱としての振る舞いを徹底的に考え、工夫した。相撲の世界だけではどうしても視野が狭くなる、外の世界にもたくさん触れ、勉強してきた。その中で、ユニセフ募金や、白鵬杯開催など、私利私欲ではなく、本当に相撲の地位向上・発展に尽力してきた。
相撲の内容は確かに張り手・かち上げは良くないことだと思う。でも一番悪いのは、それをずっと放っておいて、後々になって百倍返しのごとく指摘する相撲協会だろう。やっていけないなら、その都度厳重注意をするべきだった。なぜ出来なかったのか?答えは簡単、過去の横綱でもやっていたからだ。あの貴乃花でさえもだ。使用頻度?そこは関係ない、張り差し・かち上げ・ダメ押しは皆やっているのだ。だから怒れない、けれども悔しい、気に入らない、だから政治的圧力で抑えにかかった。一代年寄を失くし、年寄襲名に条件付きの誓約書を取り付けた。これで、体制側は一安心だろう、しかし、大きく先を見越せば白鵬こと間垣親方の株は更に上がった。こういったエピソードは、後々に伝説の一ページになる。現役時代からその指導手腕で多くの内弟子を関取に育て上げた。その過程で、既にアマチュア相撲とのパイプもでき、いい人材を確保するルートは出来上がったのだ。
モンゴル勢一丸となり、相撲の世界の天下餅を見事に作り上げた。これからは弟子の指導という手腕で角界に新たな風を吹き込むことだろう、こうやってまとめてみると、今の相撲協会がどうしてモンゴルの追随を許してしまったのかなんとなく見えてくる。いかに相撲界をよくしていこうではなく、いかに保身を守るか、脅かす存在を抑えるかに注力してしまったからだろう。間垣親方だって、悔しい思いをしているはず。このまま黙ってはいないだろう、密かに爪を研いで来たるべき日に備えると思う。
「お相撲さんだから」という、いい意味での特別感は少しずつ少しずつ、気付かれない速度は弱まっている。今のままでは、「気は優しくて力持ち」なんてフレーズはラグビーなんかに持っていかれてしまう。公益財団法人だから大丈夫なんて保障はどこにもないのだ。