ノーテーピングその1

 昨今の相撲界を見ていると、とにかくテーピングやサポーターなどが目立って仕方ない、見てるだけで痛々しく感じてしまう。大相撲ファンの方なら大多数そう思ってしまうだろう。私は違った目線で感じることがある、きつく巻きつけたテーピングを見ると、窮屈で動きにくそうに見えるのである。これは、実際に現役時代を経験したことに基づいて言っている。

 私は、小学生から相撲を始めたが、すぐにテーピングを手首に巻き始めた。特に手首を痛めていたわけではない、漫画ドラゴンボールでキャラクターがリストカバーをはめているのを見てかっこいいと思ったからだ。きっかけの動機は多少不純ではあるが、その後の自分の相撲のスタイルである押し相撲を考えれば、あながち間違ったことではなかったかもしれない。突き押しは手首に負担がかかる。あとテーピングを使用した箇所は、足の裏。砂の上ですり足で動くので皮がめくれやすいためだ。このようにテーピングはなくてはならない存在であった。

 どのスポーツ競技にも言えるのだが、怪我をする危険性というのは、大きな不安要素である。その不安要素を可能な限り少しでも和らげてくれる存在、それがテーピングであると信じて疑わなかった。不安要素がなくなれば集中力も増す、集中力も増せば稽古量も増え強くなると思い描いていた。キャリアを重ねるほどテーピングの量は増えていった、まるでそれが強さと経験の深さのバロメーターであるかのように。

 30歳を超えた頃だった。場所中に酷いギックリ腰にみまわれて、大変な思いをした。その時、腰に幅の広いテーピングで補強したことで痛いながらも相撲が取れた。そして、変な自信がつき、新たなテーピング箇所が増えたことで、経験値が増したような気でいた。しかしこれが後々の悲劇を生むことになる、その後何回もギックリ腰を繰り返した。ひどい時は朝起きた瞬間に発症したものだ。背伸びしたとかではなく、普通に目を開けただけである。少しづつ腰は悪化し、ついに稽古で椎間板ヘルニアを発症させてしまった。本場所直前であったため、治療するまもなく強行出場し勝ち越した。この時は痛みだけであったのでなんとか凌げたが、ここからが地獄の始まりである。痛みを通り越して、重い・辛い・苦しいという症状が出てきたのである。わかりやすく説明すると、24時間ずっとウンチをギリギリまで我慢してる時のようなお腹周りが締め付けられるような感覚だった。下半身の力も入らない、稽古も出来ない、足は見る見るうちに痩せ細っていった。

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