教育と大相撲

 先日とある年配の方とお話しさせていただく機会があった。近年の教育問題について話をしたが、昔と違い、ワァーっと怒鳴ってゲンコツでも食らわせれる時代じゃなくなったから困ったものだ。そういう時代じゃなくなったから、子供がおかしくなるのだと。挙げ句の果てには、かの「戸塚ヨットスクール」のような施設が一番いいとまで言っていた・・。

 私は反論させていただいた。怒鳴りつけゲンコツだけで言うことを聞かせることができたのは、それが社会の風潮であり、そういったことを耐えた先に素晴らしい世界が待っていると信じられていたから。高度経済成長で、人は皆活気に満ち溢れ、勝ち気でいた。けれども、そんな何も考えなくても、世の中が潤っていた時代に勢いにまかせた教育を施したせいで、結果今の世の中になってしまってるのではないですかと。

 いけいけどんどんと突き進んでいった結果、世の中が最悪の状態になった昨今、子供達は悟り世代なんて言われてるが、私から言わせれば「ツケを払わされる世代」「尻拭いさせられる世代」と言ったほうがしっくりくる。「悟り」だなんて、もっともらしく飾ってるだけの言葉で仰々しい。ブッダになるというより、今の世の中を割り切るしかない・・諦めにも似た言葉である。

昔の絶頂期の人間達の報いをかぶる形となるこれからの世代の子供達に一体どうやって教えていくというのだ。少しでも、自分がしてきたことにひょっとしたら間違っていたのではないかという自戒の念さえ、あれば少しはマシな教え方もできようが、そういう考えは毛頭ないことには怒りを通り越して呆れるしかなかった。まさか戸塚ヨットスクールを推奨するなんて・・、あそこでは死亡事件まで起きてるのにだ。

 大相撲界の指導のあり方も世間一般と同じような悩みを抱えていることだろう、かつて「無理偏に拳骨と書いて兄弟子と読む」なんて言われるくらい手が出ていたと思う。しかし、全てのそれを「暴力」と一括りにしてしまうのも問題だ。私なりに暴力というのは、理不尽なことで行うことだと思っている。物理的に手をあげることだけでなく、精神的に追いつめること全てが暴力だと認識している。

今の相撲界は、世間一般で認知されている暴力というのは皆無に等しくなくなった。時津風部屋で過度なしごきで死亡事件が発生してから、徹底して暴力を廃絶させようという動きになったからだ。確かに物理的に体を叩いたりという「暴力」はなくなった、しかし私から言わせれば単なる茶番に過ぎない。その確固たる証拠が、強い力士が現れてこないではないか。しかも、クスリに手を出す相撲取りまでいる始末。もはや相撲界の指導は崩壊の一途をたどっているのだ。

 ゲンコツを食らわせられないのをわかっているから、稽古場に緊張感がない。あるのは、これでいいのか悪いのかわからない、延々とさせられる稽古である。そこには生き生きとしたエネルギッシュさはなく、気怠さだけが漂う。指導する立場の人間も、ゲンコツができない以上どう指導したらいいのかわからない。なので、半分放置に近い。強くなるための指導など存在しない、気に入らない動きがあれば注意するだけ。言うことを聞かなければ、それこそ目の敵とばかりにずっと相撲を取らせる。こんな指導がまかり通ってる部屋があるのだ、これも形の変えた暴力だと思う。

広義の意味であれば、強い力士を育てることは、その部屋の評価を高め、支援者であるタニマチがたくさん集まってくる。しかし、今の時代そんなことよりも、1人でも多くの弟子をかき集め、毎月相撲協会から支給される養成費などの方に目がいっている。結果が出るかわからないことよりも、確実に手堅く得られる利益を優先してしまった形だ。こんな環境で強い力士をどうやって育てることができるだろう?

 相撲部屋の上下関係もおかしくなっている、養成費優先であるから、とにかく入門してきた弟子を手厚く大事にしなければいけない。怒ることさえ、イジメに繋がる。つまりピラミッドの頂点が兄弟子や番付が上位だとすると、逆三角形になっている。一度こんなことを聞いたことがある、2.3年経験した力士が弟弟子ができたのだが、どう怒ったらいいかわからないと。

こんなおかしなことがあるのだろうか?新弟子であればあるほどふんぞり返っているのだ。新弟子は何か兄弟子に嫌な思いをさせられたらいつでも相談してという「印籠」をもらう、兄弟子は怒れず、逆に我慢を強いられる。相撲界はキャリアを重ねれば重ねるほどストレスを抱える世界なのだ。

 強くなるために一生懸命頑張ろうとする人間はあまり評価されず、認められない。何でも素直に言うことを聞き、愛想がよく世渡り上手な人間が気に入られ、部屋での立場が上になる。

教える立場の人達には、結果的に間違っていたとしても、強くなるように熱血に指導してほしい。角界という厳しい世界に身を投じるのだからそれなりの覚悟、情熱を持ってみんな入門してきた。今の若者が求めているのは、熱い心の持った指導、強くなるための指導である。暴力なんかもってのほかだが、教える人と教わる人が、喜び・悲しみ・悔しさを共有し、二人三脚で頑張れば相撲部屋全体が活気づく。それが相撲界全体の人気回復に直結する、そうなってしまえば横綱白鵬の時代なんかあっという間に世代交代になるだろう。

 今日は番付発表だ、9月場所は誰が優勝するのだろう??

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