自伝21 始まった高校生活

 中学校も無事卒業し(当然であるが)、いよいよ高校生活が始まろうとしていた。通っていた相撲道場も中学生までなので、稽古もしばらく休みとなった。勉強もせず、稽古もせず、体はどんどん重くなっていた。高校の相撲部は、入学式前に学校の敷地内の合宿所で強化合宿を行うのが慣例であ理、入学前の人間も慣れるために参加することになっていた。中学時代から合宿には参加させてもらっていたし、ちょうどこの時期に土俵の土を掘り返して固め直していたため、稽古も地面に負担のかからない軽いトレーニングに終始徹した。こんな楽なことはない、みんなでご飯作ってみんなで寝て、厳しい稽古がないだけで楽しくて仕方なかった。

 あっという間に合宿も終わり、入学式を迎えた。全校生徒がとても少なく淡々と終わる、そして下宿生活が始まった。下宿先は相撲部の監督の自宅の道路を挟んだ目の前の一軒家である。寮母さんみたいな人はおらず、掃除、洗濯、食事など生活の一切を全部自分達でやらなければならなかった。合宿と下宿、似てるようだが少し違った。合宿という言葉は非常に広義の言葉であるが、当時の解釈で言うと期間限定で実家を離れることであり、少しの間だけ我慢すれば帰れることだった。しかし下宿は違う、日常生活が実家じゃなくなるのだ。週末の土曜日の稽古後に帰れることにはなっていたが、この不思議な違和感に自然と寂しさが込み上げてきていた。これが世に言うホームシックであった。あの寂しさの感覚は今でも忘れない、フカフカの新しい布団を親は用意してくれていてそれを使っていたが、あの気持ちよさと寂しさのコントラストと言ったらない。人は何歳になっても、ホームシックにかかるらしい。なので、15歳のうちに経験しておいて良かったと思う。

 中学時代に中だるみというか真剣に相撲に取り組まなかったことを悔やんでいた。下宿なんかせず、通おうと思えば通えたのだが、あえて退路を断った。中途半端に取り組んだことで相撲に勝てなくなり、いかに相撲が自分にとってかけがえのない存在であるのかが嫌というほど気づかされた。生活を一からやり直し、全部自分達でやることは、それまで当たり前にしてもらっていたことがいかにありがたかったか、身に染みてわかった。この時親に感謝の気持ちが芽生えた、感謝の心が芽生えると人は強くなる。生活も稽古も充実していた、大変だったけどやりがいを目一杯感じていた。

 さあいよいよ高校生最初の大会を迎えることになる、高校デビュー戦だ。

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