自伝23 病気(前編)

 乗りに乗ってるとはまさのこの時のことを言うのだろうか?相撲の稽古は順調そのもの、部活が充実すれば授業もそれなりにこなせた。なんせ若さからか、稽古はした分だけ強くなっていくような気がした。まさに怖いもの知らずとはこのこと、なんでもかかってこいという気分だった。そして、待ちに待ったインターハイ予選。高校の試合なんて学年別はない、一年生も三年生も関係なく対戦するがお構いなし。乗ってる時は先輩にも物怖じしない、出来過ぎの準優勝だった。インターハイ出場の切符を手にし、ますます稽古に身が入った。

 そんな中、山形県の合同合宿が行われた。充実した稽古が終わり、第二の稽古である食事の時間が始まった。胃袋には自信があったので、ひたすら食べる、気持ち悪くなるまで食べる、ここまでは普通だ。しかし、いつもなら順調に消化し、お腹も元通りになるはずなのだがならない。気持ち悪さが続き、吐き気をもよおし、脂汗が出てきた。その日の夜までは我慢したが、さすがに限界がきて病院に行った。診察を受けるが虫垂炎の可能性があると言われた。いわゆる盲腸である、まさかそんなはずは・・。普通盲腸って痛いはず。そんな痛みはそれまでなかった。しかし、後になって振り返ってみると肥満体質で常に腹一杯食べ、調子が悪くなれば整腸剤などを飲んで凌いでいたものだから気付かなかったのかもしれない。もっと早く気付きちゃんと検査していれば・・、悔やんでも悔やみきれなかった。

 検査しても、虫垂炎の反応は出なかった。しかし、盲腸が破裂し、腹膜炎を起こすと反応が出なくなるらしい。気持ち悪さは時間とともに増大し、ついには腹を切るしかなくなった。大きい病院に移り、手術の準備が始まる。痛いのを通り越して、気持ち悪さが体全体を覆う。思春期の時期には酷なことだが、剃毛というのも経験した。がしかし、苦しすぎて恥ずかしさなど微塵も感じないくらいになっていた。

 いざ手術が始まる、全身麻酔ではなく局部麻酔だから腹が切られてるのがわかった。痛さでいうと、思いっきりつねられてる感じだった。体が大き過ぎて麻酔の効きが悪いのでガスマスクをつけられた、そしたらいつの間にか手術も終わって病室にいた。身動きが取りづらい、そりゃそうだ、お腹に大きな穴が空いていて、そこに管を通されているからだ。予想通りの腹膜炎、破裂した膿はお腹全体にいき渡っており、けっこう危なかったらしい、まずは無事命があることに感謝した。しかし、本当の試練はここからだった。まず、ひたすら喉が痛い。何故かというと、口からも麻酔を入れられたが、少々毒気のある薬らしく、扁桃腺を腫らしてしまっていた。喉も痛く、お腹も痛い。寝返りが打てず、背中も痛い。

 咳・くしゃみなんかしたらアウトだ、お腹に響き激痛が走る。しかし、麻酔の影響で咳が出やすい、恐怖で寝れなかった。おしっこの管が取れ、やや体が自由になったかと思ったがそうでもなかった。おトイレに行くのもこれまた地獄、点滴+お腹の管が通った虫かごサイズのケースを持ち、痛みに耐えながら歩行しなければいけない。ついこの間まで元気に相撲を取っていたのに、ほんの数メートル歩くのでさえ困難になるなんて夢にも思わなかった。

 ご飯も食べれない、空腹もつらかった。他の患者さんは3食食べている、嫌でも美味しそうな匂いを嗅がなければならず、辛かった。当たり前の生活がいかに幸せなことか、病院で入院するとつくづく思い知らされる、入院あるあるとでも言おうか。心配して、学校の同級生や相撲関係の人が見舞いに来てくれるのが唯一の楽しみだった。けれど、相撲の試合の話などは聞くたびに苛立ちが隠せなかった。どんどん痩せ細っていく体・・。今なら痩せるのは嬉しいが、当時は体重は財産みたいなもの。それが少しずつなくなっていくのだからこれほど辛いものはない。

 ようやく食事ができるようになったのは手術から二週間後だった。今だから言えるが実はフライングして前日食べてしまった、だって見舞いに来てくれた人が美味しそうなケーキ持ってきたんだもん。あまりにも美味しそう過ぎて、夜中に看護師の巡回が来た直後に食べた。まだ腹に穴が空いており、怖かったのでいつもの10倍は噛んで、これでもかというくらいペースト状にして飲み込んだ。ケーキってこんなに甘いものだったんだと思うくらい美味しかった、しかし見つかるかもしれないスリル感も同時に味わっていたので、あまりゆとりはなかったな。食べたのも半分もいかなかった。

 正式な食事は堂々とできる!胸を張ってその時を待つ。最初の食事は消化にいいものとして、おもゆと具なしのすまし汁だった。おもゆとはおかゆよりもっと水っぽくて、お米の原型はほぼ0。それでも、世の中にこんなに美味しいものがあるのかというくらい感動した。この二品は私の生涯の美味しいものベスト3に入る美味さであった。

この入院生活では私のその後の人生に大きく影響するものを見た、それは次回書きたいと思います。


自伝23 病気(前編)」への2件のフィードバック

  1. mika 返信

    おもゆとすまし汁の前にケーキ!笑
    見つからなくてよかったです。

    • ooiwato-master 投稿者返信

      まったく何も悪いことはしてないのに、犯罪者の気分でした( ̄∀ ̄)

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