相撲物語 その参

同級生が優しくなるのは結構だが一週間の勉強のブランクはなかなかきつい、儀平は全く勉強についてゆけなかった。

そもそもこの儀平、勉強もできないし運動神経もよくない。かといって全くできないわけでなく、平凡より下のレベルである。

特に秀でたものがあるわけではなく、頼り甲斐もないので普段はバカにされた。儀平は平凡を望んでいた、しかし体が大きいということで上級生には絡まれ、女子には笑われる。

健康通知表なるものには毎年「肥満」の文字が書かれるが、年を経るごとにその文字の筆圧が強なっていくように見えた。太っているだけでこんなに悪者になるのかとわずか9歳にして人生の絶望感を味わうことになる。

しかし儀平の一番の天敵は担任Mという女教諭である。歌の授業では口の開きが小さいと頬を思い切り締め付けられた、余計に声が出ない。プールの授業では日焼けが過ぎて水膨れした背中を思い切り平手打ちされた、大勢の同級生の前で躾という名目でズボンを無理やり脱がされ、下着姿にさせられた。

しかし「人間万事塞翁が馬」で、この天敵が儀平の人生を大きく変えるきっかけを作るのである。それは雪国特有の冬の分厚い雲が覆い被さる曇り空も終わりを告げ、春を迎えるべく雪解けが始まった年度末の話である。

儀平自身も、長い冬を終え新しい季節を迎えようとしていた。

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