わんぱく相撲 後編

 試合を翌日に控え、さあ寝ようかと思っていたときにゾロゾロと大人たちがやってくる。一緒に泊まっていた別のチームの指導者と選手の親たちだった。いきなり訓示みたいなのが始まる、そうこのチームは本気で全国優勝を狙っているチームなのだ。それぞれの選手の相撲のスタイルはどんなものであるのか再確認している。周りの他のチームの人間も背筋が伸び、話に聞き入ってしまった。最後に大人たちが帰り際に、大人しく早く寝るようにと念を押された。まるで、「うちの子たちの邪魔はしないように」と言われているような感覚だった。結果的には、本当にそのチームは団体優勝を果たす。わんぱく相撲は、団体戦という種目はない。三人の個人戦の成績を得点にした合計で争われる。4年生、5年生が小結(ベスト8)、6年生が関脇(3位)、やはり優勝を狙うチームというのは意識が高かった。

 本番の日、朝ご飯までお相撲さんが作ってくれる。早い時間から本当にありがたい、けど前日同様に非常に食べづらい環境だ。頼むからセルフサービスにしてくれ!さぁ出発なのだが、なんとマワシを巻いてからその上に服を着て国技館へ向かった。向こうでは着替える時間も場所もないかららしい。その状態で電車に乗るのは、なかなかの違和感だった。到着したら、緊張感と熱気に包まれていた。支度部屋は、マワシ一丁のユニフォームを身につけた選手で溢れかえっていた。さあいよいよ開会式である、前日のリハーサル通り着々と進行が進む。いろんな人が土俵上で挨拶をするが、その中に理事長になったばかりの出羽海親方(元横綱佐田の山)もおられた。当時は今以上にテレビで相撲の特集をやっていたので、まさに自分の中では有名人だった。言葉一つ一つに重厚感があり威厳がある、身が引き締まる思いだった。

 試合が始まる、選手は土俵溜まりに座らされる。周りを見てびっくりした、自分より遥かにでかい選手がゴロゴロいた。小学校で肥満と診断されているが本当なのかと思ってしまう、私が肥満なら彼らは何なのか?超肥満とでもいおうか、こんな体格差が生まれてしまうのであれば、小学校で保健の先生に課せられた栄養指導など真面目に取り組まなければよかったと思う。

 緒戦は二回戦からだった、土俵で対峙した対戦相手は自分より少しデカイくらいだった。このくらいならちょうど思い切り当たりやすい、なんなく完勝した。全国大会、しかも国技館の土俵の上で相撲を取るのだから緊張したが、それなりに体も動いた。少し自信もつき、欲も出てきた。しかし、直後にその鼻はへし折られる。

 二回戦まで終わると、一旦支度部屋に集合がかかった。これから、三、四、五回戦が始まるのだが、衝撃的事実を知った。次の対戦相手が前年のチャンピオンだったのだ(悲)。そんなの知らなければ、もしかしたら食った(勝った)かもしれない。しかし、面白がって教えてくるチャラ蔵がいるわけだ。わんぱく横綱という存在には、ミーハーや金魚のフンみたいなのが集まってくる。支度部屋で目の前の座っていたわんぱく横綱にはたくさんの子供達が群がっていた。完全に飲まれてしまった、一泡吹かせてやろうなんて気は起きない。体格も差がある、ただただ挑むしかなかった。

 そして、運命の三回戦。立ち合いは歴代何番もない手応えのある当たりができた・・と思ったら待ったがかかった。向こうは最初様子見だっただけで、二回目の立ち合いは問題にされず押し出しで負けた。初の全国大会は終わった。国技館で試合出来ていい経験はさせてもらったが、ほろ苦い結果となった。しかし、こういう経験がまた相撲にのめり込むきっかけになったのだけは確かである。上には上がいる、結局前年度チャンピオンだって準決勝で負けてるわけで、はるか先の全国制覇という夢が膨らんでいた。

 帰りの秋葉原駅で、前日泊まった高田川部屋の力士の新弟子さんとばったり会った。向こうは覚えてなさそうだったが、声をかけた。後日あらためて手紙を書いたら返事が届いた、その後しばらくは番付表やカレンダーを送ってきてくれた。しかしびっくりしたのは、知らぬ間に姉貴と淡い文通を繰り返していたことだ。しばらく経ってからわかったが、私にはくれなかった写真なんかも複数枚送っていたのである。年齢が一緒だったのかな?そりゃ気を揉むわな、お相撲さんは男所帯の世界だから、恋愛したいんですよ。今ならその気持ちよくわかります(笑)

大学卒業して、大相撲の世界に入った時に、その力士の方は教習所の指導員をされていた。私のことは覚えててくれて、何年ぶりかの再会が嬉しかった。いきなり私の下の名前「義之!」と呼ぶから、周りの兄弟子はびっくりしてたな。指導員だけが食べれる昼ご飯のおかずとかお裾分けしてくれたり、姉の話をしてくれたり、楽しかったなぁ。その方は今もお元気にされてるだろうか?郷里の広島へ戻ってご結婚されたとは聞いているが・・。こんな時に人のご縁をありがたく感じるものである。

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